今回は、住宅の断熱防湿に関する“とんでもない設計ミス、施工不備”(烈しい結露・カビ・錆)についてレポートします。
1.建築の設計において建築物に付属する車庫(いわゆるビルトインガレージ)は、断熱(防湿)の構造上、屋外扱いとして設計します。これはシャッターの開閉時や締め切っているときでもシャッター周囲の隙間やシャッターBOX部分から湿った外気が常時侵入するなど、冷暖房時には屋内外で多量の熱交換が行われるためです。無論、建築主や購入者が外気(湿気)の侵入や冷暖房効率の不良(不経済性)等について予め納得や妥協をしておくのであれば屋内扱いという設計も有りかも知れませんが・・・。
ただし、本件建物のガレージは、シャッターBOX部分だけでも約9.0~10.0㎝☓5.4mの隙間が存在していることに加え、軒天換気部分(有孔板)からも外気がガレージ内やその天井裏へ侵入しており、ほぼ開放状態と言っても過言ではありません。
2.現在のところ建物の断熱に関しては建築基準法によって規定されているものではありません。しかし、断熱性能を備えた標準的な建物として建築契約ないし売買契約をしているのであれば話は別です。住宅として社会通念上必要とされる性能の欠如は許されません。品確法・JASS24・住宅金融支援機構 木造住宅工事仕様書・メーカー施工資料等に沿った品質・施工基準が瑕疵判断の基準となるでしょう。したがって、断熱材を一部でも省略したり、隙間だらけの杜撰な施工では、瑕疵や欠陥としての指摘を免れないでしょう。
そもそも、断熱防湿は建築設計ないし建築における基本中の基本ですから有資格者である建築士であれば、その構造や施工方法などを知らないはずはありません。住宅金融支援機構 木造住宅工事仕様書では、施工部位として「断熱構造とする部分・断熱構造としなくてもよい部分」について分かり易く図示されていますし(下図、上段の参考図参照)、基本的な事柄や留意事項も詳細に記載されています。
ところが、本件建物(木造2階建て住宅)では、ビルトインガレージを屋内として設計しているうえ、断熱材自体の施工についても極めて杜撰な施工がなされている。(下図、下段の現況図等参照)
≪現況図の説明≫
ア. 図中AとB:外気に接する2階床に断熱材が未施工(全般)。
イ. 図中C:外気に接する小屋裏(小屋裏換気口より外気が侵入)で、間仕切り壁頂部及び天井に段差のある部分の間仕切り壁頂部の壁に断熱材が未施工(全般)。
ウ. 図中D:外気に接する壁上部(天井裏)に断熱材と石膏ボード未施工部分があり、ガレージ側より1階居住空間の天井裏に外気が侵入している。
エ. 図中Fの居室外周壁は防湿層が屋内側に設置されているにも拘らず、Eの壁全面では防湿層がガレージ側に設置されている(図中E部分の断熱材裏返し。すなわち、1階居住空間には防湿層(表)と防風層(裏)が混在している)。
≪現況図(模写図)に図示している以外の施工不備≫
オ. 水廻り等の天井断熱材の裏返し。
カ. 吹抜け部分の間仕切り壁内では、同空間でありながら2階部分では断熱材防湿層を屋内側に設置し、同1階では屋外側に向けて設置している。(断熱不要箇所の設置)
キ. 各階外周部断熱材の隙間だらけの施工ないし断熱欠損。
ク. 各階外周部断熱材の留付け不良による防湿層の不連続(全般)。
ケ. 1階床断熱ボードの過大な断熱欠損の放置。
以上のように、本件建物の断熱構造・施工では、殆ど真面な工事は行われていません!
↑それぞれ断熱材の表面には「この面が防湿層です。こちらを室内側に向けて取り付けてください」と親切にプリントされています。従って、裏表を間違うはずはありません。“ところが、上写真はいずれも屋内側から壁面を撮影したもの!”
≪上記の設計ミス・施工不備による結果・事象≫
① ガレージ天井裏の激しい結露と金物類のサビ、おびただしいカビの繁殖。(広範囲のカビ・錆)
② 1階の居室天井裏のカビの発生。
③ 各階、間仕切り壁内の気流の発生と著しい黒カビの繁殖。(全般)
④ 2階天井点検口の蓋部分などに結露水の滞留。(初夏)
⑤ 住宅設備機器類の結露による著しい錆び、部品交換。
⑥ スイッチBOX・コンセントBOX等の錆び、リモコン等の結露による故障。
⑦ 屋内家具類・衣類等の著しいカビの発生。(毎年)
⑧ 冷暖房費の拡大。
本件建物では、ガレージ内と居室天井裏への外気の侵入、そして、外気に接する床断熱材の未施工、壁・天井裏断熱材の隙間だらけの施工、さらに裏返し部分が相当に存在しているのだから、壁内や天井裏の結露・カビ・サビの発生は至極当然のことです。
カビの繁殖は健康被害も懸念されますし、電気系統の結露は漏電による火災の危険性さえあるのです。皆さんは、この建物が居住者(ご家族)にとって安心して過ごせる住宅だと思いますか?このような屋内・壁内がカビだらけのお家に住むことが出来ますか?建築会社の社長さん、社員さん、そして当該建築士さん、あなた方はこの家で大切なご家族と一緒に生活できますか?
ここで、本件建物と同様の断熱の設計施工に瑕疵のある建物の判例(判示の一部)を紹介します。以下に述べられていることが、まさに本件の全てを語っているのではないでしょうか。
『断熱材施工の目的は、冷暖房の効果を上げることと建物の壁内結露を防ぐことにある。従って、住宅の断熱工事の基本は、居住空間を断熱材でスッポリと包み込むことによって、室内の空気と外気とを遮断することが必要である。その一部でも断熱材がなかったり、あるいは敷き込みが乱雑で隙間があるような場合、室内の水蒸気を含んだ暖かい空気が断熱材内に侵入し断熱材内に滞留して外気温に冷やされることによって壁内結露を生じさせる。壁内の結露は断熱材の断熱性能及び木材の耐久性能の低下をもたらす原因となるため、公庫仕様(現在の住宅金融支援機構木造住宅工事仕様書)では、「断熱工事」という独立の項目を設けて断熱材の材料、施工部位、施工方法等を具体的に指示しているのである。
本件建物のように断熱材を一部省略したり、隙間だらけの断熱工事では、断熱材の効果のほとんどを減殺させ、本件建物の機能性及び耐久性を著しく低下させていると言わざるを得ない。』としている。(長野地裁松本支部平成15年9月29日判決)
さらに、『住宅工事においては、日本工業規格、日本農林規格、日本建築学会の設計基準または標準工事仕様書(JASS)公庫仕様書等確立された権威ある建築団体による標準的技術基準に適合しない場合にも、注文者がこれらの技術基準に達しない建物の建築物を希望するとは考えられないので、その建築物に瑕疵があるものと考えられる。』とも判示しています。
そもそも現代の建築において、居住空間ないし外被の断熱性能等を一切期待しないという建物を注文するケースは恐らく皆無と言ってよいでしょう。建築主は法に適合しない建物や契約内容に反する建物、そして標準的技術基準にも満たないような建物を注文するはずがありません。
なお、今回レポートしている建物は、断熱・防湿に関する設計施工不備のみならず、その他にも外壁・軒裏の防火構造違反など多数の重大な瑕疵(欠陥)が明らかとなっており、瑕疵修補は膨大です。
本件建物は近年に建築された建物です。本件建物を建築した建築会社は20数年の実績があるようですが、これまでの建物も同じような設計・施工(手抜き工事)をしてきたのでしょうか!建築(断熱防湿)の基本くらいはきちんとお勉強をしてから他人様のお家を建築しては如何でしょうか。
“建設業の許可があるから”“建築の実績があるから”“有資格者(建築士)だから”といって真面な建物が建築されるとは限りません。皆さん、プロモドキの建築会社と建築士に気を付けましょう。
KJS山﨑
|