今般、Y建築会社が建築した建物では前回迄の小屋組、省令準耐火構造、断熱構造等における施工不備(KJSレポート73-1・2・3)に続き、別の建物(分譲地)でも、さらに重大な瑕疵の一つとして外壁等の防耐火構造における設計施工不備が指摘されており、係争に至っている。
本件建物は、建築基準法第22条(23条:外壁の防火構造)指定地域に建築されている木造の戸建住宅である。従って、外壁等の延焼の恐れのある部分については、準防火性能やその構造方法について、施行令第109条の6.及び平成12年告示1359号並びに同告示1362号に掲げる技術的基準に適合するものであることが要求されている。すなわち、外壁(内壁)の不燃性能に関する要件と、その構造方法についての要件が規定されており、概略は以下のとおりである。
建築基準法第23条「外壁」では、「(前略)、①.その外壁で延焼の恐れのある部分の構造を、準防火性能に関して政令で定める技術基準に適合する土塗り壁その他の構造で、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの、②.又は、国土交通大臣の認定を受けたものとしなければならない。」としている。また、同施行令第109条の6.では、準防火性能に関する技術基準として、通常の火災時の過熱(火熱)に対し、外壁にあっては20分間以上損傷を生じないこと。内壁に面する部分にあっては、20分間可燃物燃焼温度以上に上昇しないものであること等が規定されている。さらに、平成12年告示1359号ではその「防火構造の構造方法」を、同告示1362号では「木造建築物等の外壁の延焼のおそれのある部分の構造方法」について、その具体的な構造方法を定めている。
これらは建築における基本中の基本であるが、当該建築士の防火構造方法等に関する設計の意図としては、上記関係法令を踏まえ外壁側を鉄網ラスモルタルの塗り厚で15㎜以上としたもの又は、20mm以上の防火被覆としたもの。屋内側にあっては9.5mm以上の石膏ボードを単に設置すれば、その性能や構造等については関係規定を充たしているとしていたものと考えられる。
しかし、有機系(可燃性)の断熱材であるアキレス社のキューワンボードを使用し、外張り断熱工法で施工するのであれば、上記の告示等で定める構造方法には該当せず、当該断熱材メーカーで取得している大臣認定の防火性能(不燃性能を含む)を有する構造方法で施工しなければならない。
上記施行令や告示等(準耐火構造・防火構造・準防火構造等)に関し、行政及び民間確認検査機関としても外張り断熱工法の場合、認定耐火構造等にあっては表面材を含めた構造方法であることが必要との見解を出している。すなわち、外壁材のみの不燃性能だけでは不足しており、有機系の断熱材を外張りとした場合の認定構造方法について、屋内外部ともにその要件を満たさなければならない。
しかし、本件建物の場合、外張り断熱工法で施工する場合の防火認定構造方法の要件を満たしていない。以下に、本件に関する指摘事項(詳細調査の結果による施工不備の状態)を列記する。
1) 外壁仕上げ材に関すること:外壁ラスモルタル塗りの場合、全般又はその部分の塗り厚不足(10~18mm程度)となっている。
2) 屋内仕上げ材に関すること
- ① 各階、屋内の防火被覆材の止め付け不良全般(壁下地の釘打ち間隔過大)
- ② 小屋裏全般、及び浴室周囲等の防火被覆材の止め付け不良(壁下地の釘打ち未施工と間隔過大)
- ③ 配線・配管等のための過大な開口の放置
- ④ 防火構造方法・材料の仕様不備(一部に可燃性材料の設置)、等々
≪本件に関する瑕疵判断の基準≫
- 建築基準関係法令違反
- アキレス社のキューワンボード外張り断熱工法における大臣認定構造方法(防火構造方法の施工規定)に違反
- 社団法人 日本石膏ボード工業会.石膏ボード製品標準仕様書
- 日本建築学会建築工事標準仕様書・同解説JASS26.内装工事編等に拠る。
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外壁モルタルの塗り厚不足(全般)
土台水切り板金部(塗り厚:18mm)。これより、仕上げ塗材の塗り厚分(その種類によって1.0~5.0mm)を差し引かなければならない。
従って、外壁モルタルの塗り厚は15㎜前後となる。(外壁全般:数十箇所を計測)
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屋内側(室内側)の防火被覆材の施工不備
(ユニットバス周囲〔床下より撮影〕)
プラスターボード外周の釘又はビス打ちは150mm以下とすべきところ、450mm程度、又はビス打ちなし。 |
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小屋裏の防火被覆材の施工不備(全般)
プラスターボード外周の釘又はビス打ちは150mm以下とすべきところ300mm程度(赤矢印)、又はビス打ち自体がなされていない。
そもそも、ボードの下地材が設置されていないため、ボードビスが打てない列がある。(赤点線部) |
≪コメント≫
本件については建築会社などから「確認検査機関の確認済証や検査済証が下りているから問題ない」あるいは、「確認検査機関の審査のあり方に問題がある」などと、的外れな反論がなされる場合がある。しかし、現況は、関係法令(告示)に違反しているうえ、そもそも契約設計図書に規定された外壁モルタルの塗り厚自体(20mm)を充たしていない。これは左官工事における、いわゆる手抜き工事といわれても仕方のないことである。
さらに、本件建物の場合、外張り断熱工法であることから、準防火の認定構造方法に基づく内装仕上げ材の施工方法等についても、その規定にしたがった施工がなされなければならない。ところが、あらゆる部位において内装仕上げ材(防火被覆材)の施工不良が認められる。(ちなみに、Y建築会社は当事務所より1年以上前にビス打ち間隔など防火被覆材の止め付け方法等の不備について、瑕疵に該当する旨の指摘を受けていたにも係らず同じ手抜き工事が確認されている。)
これらは、万一、屋内又は屋外より火災など不足の事態が発生した場合には、法で要求された非難時間が確保されていないがゆえに、人の生命を脅かしかねない重大な欠陥である。無論、このような瑕疵(欠陥)のある建物は、新築であっても不動産としての経済的交換価値は期待できない。(高裁類似判例)
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