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KJSレポート

 


 
宅地造成工事等の瑕疵に関する訴訟、福岡地裁にて原告勝訴
No.72 - 2013/2/14

(福岡地裁2012年5月判決)

今回は、宅地造成工事、擁壁築造工事の手抜き工事につき訴訟に至っていた事件を紹介します。

≪概要≫

  • 宅地造成等規制区域外、建築基準法適用外
  • 2005年、造成工事、擁壁築造(大型ブロックによる組積造)
  • 2006年、戸建住宅新築(注文建築)
  • 2007年、建物調査、宅地擁壁調査(調査:KJS)
  • 2008年、宅地の売主、土木造成業者を相手方として提訴

訴訟の相手方は、宅地の造成工事を請け負っていた T組 です。 T組は売主Aから請け負った造成工事に関し、デタラメな手抜き工事を行っていたものであり、その結果、擁壁の沈下や傾斜・孕み、地盤沈下により、上部の建物が沈下を起こしたものです。本件の造成等の工事は、T組の主張によると「 T組と売主Aと○○住宅不動産(仲介を依頼されていた不動産業者)の三者で話し合って決めてした工事だ」との証言がありました。すなわち、造成工事や擁壁工事の手抜き工事については、事前に、その三者で話し合ってしていた工事だったのです。

≪本件の争点の特徴≫

  1. 不動産売買契約(重要事項説明)に際し、売主は買主に対し宅地に関する瑕疵担保責任を負わない旨の特約を不動産業者が付加していたこと
  2. 宅地造成に伴う擁壁の構築に関し、宅地造成等規制区域内ではないうえ、建築基準法に抵触しない高さ(2.0m以下)であること
  3. 擁壁工事の手抜き工事による地盤沈下と、建物の傾斜に関する因果関係。
  4. 産業廃棄物による宅地の埋戻し造成工事

上記の争点に関し、造成業者である T組 の言い分は、「○○住宅不動産と売主と自社の三者で決めてした工事なのに、何故自分だけがなぜ損害賠償をしなければいけないのか」或いは、「擁壁に近いところに家を建築する方が悪い」など、子供じみた主張がなされていました。しかも、「俺たちは裁判で負けたとしても、廃業か倒産かすればよいことだから・・・」と開き直っていましたが、これほど社会や被害者及び厳正な司法の場をも愚弄した言葉はないでしょう。また、この程度の事しか思いつかない人達だからこそ、人道に反するような手抜き造成工事等が出来たのかも知れません。

本件のようなことをしていれば、訴訟になった場合、いかに瑕疵担保責任は負わない旨の特約をしていても、知っていながら「手抜き工事をした、仲介した、売却した」という不法行為から免れることはできません。従って、特に土木業者T組が勝訴する可能性は常識で考えても皆無です。それにも係らず最後まで戦う意味があるのか常識のある世界で理解できることではありません。
強いて言うなら、土木業者T組は「三者で決めてした工事なのに、売主と仲介業者は知らん振りをしている。」といい、仲介業者は「俺は知らないのに、土木業者のT組が何でそんなことを言うのか分からない」と、手抜き工事の擦り合いをしていました。したがって、T組としては「どうせ訴えられて負けるなら、逆に、訴えてもらって、他の2者を巻き込んで3者で負担すれば自身の負担が軽くなる」とでも思ったのでしょうか? ところが、原告と被告の売主Aだけは係争終盤で一定の損害賠償にて和解した。

以下に、どのような工事が行われていたのか、そして、どのようなことがなされていたのかを記述し、その現況写真を一部掲載します。(専門用語が多くて分かり難いかも知れませんが、一定の知識をお持ちの方や、建築士の方であれば、どの程度の酷い工事であるか容易にお分かり頂けると思います。)

≪施工不良(手抜き工事)の内容≫

(1) 軟弱地盤地の擁壁基礎補強(地盤補強)の未施工。彼らは当該地域が以前より軟弱地盤であることを知っていたにも係らず、何らの確認も措置も行っていなかったもの。
(2) 設計上、擁壁として構築されている大型ブロックは宅内側へ傾斜をつけて構築すべきところ、垂直に積み上げている
(3) 大型ブロックの空積み(裏込め材、及び裏込めコンクリートの未施工)
(4) 住宅解体や道路解体時等に発生した産業廃棄物を、宅内及び大型ブロックの背面の埋戻し材としている
 
*コンクリート・ブロック・アスファルト・スレート・発泡スチロール、鉄筋類・電気スイッチプレートの破片等。
尚、この位置(ブロックの背面)を掘削できること自体が施工不備です。
   
(5) 天端コンクリートの未施工
(6) 長さ10m毎に一箇所設置すべきジョイントの未施工
(7) 背面パネルの未設置
(8) 基礎自体の構造・形状不備、施工不備(所要傾斜又はすべり止めの未設置、極端な厚み不足と控え長さの不足)
(9) 基礎コンクリートの栗敷き無し、砕石厚み不足、転圧不足
(10) 基礎コンクリートの不連続(未施工箇所の存在)
(11) 基礎と大型ブロックの間に木片を隙間調整材として敷き込み
(12) 水抜き孔の背面の透水材の未設置、及び水抜きパイプの未設置
(13) 改修工事として宅地内に木杭を打ち込み、或いは建物の基礎に鉄筋アンカーを打ち込み、外側へ傾斜した大型ブロックを引き寄せていること。(5年のうちに木杭は腐食しボロボロ。応急措置にもなっていない。また、建物の基礎は傾斜した大型ブロックを引き寄せるためのものではない。)

以上のような手抜き工事が行われていました。 その結果

≪現象・事象≫

(1) 擁壁の基礎コンクリートに亀裂の発生
(2) 擁壁の基礎コンクリートが前面へ傾斜
(3) 大型ブロックの孕みと沈下
(4) 排水不良による大型ブロック継目からの常時漏水
(5) 宅内地盤の沈下
(6) 外構工事ブロック・フェンス等の傾斜、亀裂、沈下
(7) 建物の基礎自体の亀裂と沈下
(8) 建物自体(躯体(床))に6.5/1.000以上の傾斜
(9) 地盤沈下の段差に伴い、屋外排水管類に亀裂と破断が生じ漏水している
(写真は別々の排水管:径50φ)

(10) その他、屋内内装材の亀裂等

≪結果とコメント≫

結審するまでに5年近くもかかりましたが、裁判の結果は、勝訴という当然の結果がでました。係争半ばで気持ちが折れることなく頑張ってこられた建築主様ご家族に心から“お疲れ様でした”と申し上げたいと思います。また、本件の係争につき、お引き受け頂いた代理人弁護士のK先生には大変ご尽力頂きました。労を労い敬意を表したいと思います。
尚、本件建物の傾斜等に関する不具合は、全てが T組 と売主A、○○住宅不動産の責任によるものだけではありません。無論、建築基準法では地盤調査等を行ったうえで基礎設計(地盤沈下に対する補強等の検討)をすべき規定があるのですから、当然、建築会社及び建築士の責任も問われます。(現在、建物自体の瑕疵と合せて係争中)

ちなみに、本年1月末よりアンダーピーニング工事によって、建物の沈下修正(地盤補強)工事を行いました。その際、掘削した建物基礎の下部地盤からは、産業廃棄物が以下の写真(一部)のようにたくさん出てきました。
この状態(写真)をみれば、地盤沈下は当然起こるべくして起こったものと言わざるを得ません。

掘削した作業穴の奥(基礎の下部)には産廃の層が見えている
掘削した作業穴より搬出した産業廃棄物の一部
≪最後に≫

本件宅地の隣地も、同不動産業者が「売地」として新しい看板を立てています。お節介かも知れませんが、擁壁工事には重大な瑕疵(欠陥)があり、さらに宅地には上写真のように産業廃棄物が埋設されています。厚かましいにも程があると思いますが、当該不動産仲介業者等はまだ懲りていないのでしょうか。本件を隠して仲介や売却等をすれば不法行為と宅建業法違反になりますし、逆に告知をすれば宅地として買う人はいないでしょう・・・。

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